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応答式ピンガと海中三次元自動追跡装置

応答式ピンガと海中三次元自動追跡装置

概要

   本装置は、放流した有用稚魚を遠隔地から24時間自動追跡できるシステムです。機能としては有用稚魚を感知するばかりではなく、複数の有用稚魚別に固体の位置と水深まで数cm単位で解析が可能です。
   追跡期間は数ヶ月の継続追跡が可能となり、有用稚魚の栽培漁業の為の有効な魚種の選択、放流効果を解析できます。
   装置構成は海中の有用稚魚に取り付けられる応答式ピンガ、海上の既知の位置に設置される海上基地局(呼び出しピンガとソノブイ)、そして遠隔地に置かれた無線基地局から構成されます。
   固体情報は自動的に無線基地局へ取込まれ、情報処理されてから三次元で表示されます。

用 途

   今回実現しようとする栽培漁業は、地域により魚種と場所を選別する選択方式です。
   有用魚種の放流対象海域は養殖筏の近くに選びます。その場に留まる魚種を選択できれば養殖で投与された餌の食べ残しを捕食させ、さらに自然の餌の利用が行われれば環境の保全と、放流した稚魚の育成が同時進行し、効率の良い方法となります。
   海面養殖の餌は10cmぐらいの冷凍イワシが多く、この餌を食べる有用魚は写真のクエなどがあります。背びれの前についているのがピンガ(発信機)です。
   この場合、実用的には放流した有用稚魚が6割以上その場の近くに留まることを実証する必要がありますが、海洋における魚類の生態は未知の領域です。
   この未知の領域を解析することが、本装置の用途です。

経済的な効果

   現在海面養殖業の生産額は5,765億円で金額的にも毎年2%の割合で減少しています。漁業生産を向上させる為、国内では毎年約20億尾の稚魚が放流されています。しかし、放流しすぎて個体が小さくなり放流過剰になっている魚種もありますし、生死も不明です。
稚魚の養殖には、魚種別に大掛りな設備投資が必要となります。
効果としては、本装置の導入により、適正な魚種と数量が予測でき、漁業生産の向上と稚魚養殖のコスト削減が可能となります。

モデル化の概要

   コンセプトの新規性


● 従来の自発式ピンガは、連続的に超音波パルスを出し続けるため送信寿命が限定されました。本装置の応答式ピンガ回路を呼び出された時のみ超音波パルスを送信するカスタムICとし、寿命は数ヶ月になります。

● 自発式ピンガは超音波振動子のQが高く、1個体を対象としていました。本装置は応答式ピンガのQを下げ周波数帯域を広げることにより、同一共振周波数の振動子で複数個の駆動周波数の使用を可能とし、複数個体の識別ができます。

● 自発式ピンガでの位置測定は、観測船に設置した超音波受信機の音圧の大きさと指向性により計算されたもので測定精度は10m程度でした。本装置では呼び出しピンガ、応答式ピンガ、ソノブイの組み合わせにより、時間差から距離を算出し数cmの高精度測定を確保できます。

● 自発式ピンガでの位置測定は、音圧と指向性による二次元追跡に限定されました。本装置ではソノブイを3台設置し、同一データを3台で受信することで時間差計算し三次元追跡を可能とします。

● 自発式ピンガでの位置測定は、人手を介する必要がありました。本装置では海上基地局をコンピュータ化することにより、データの送受信と計算保存処理を自動化できます。また、遠隔地に設置した無線基地局から、このデータを随時取り出せます。

● プラスチックタグを装着する方法は、放流点と再捕点がわかるのみで再捕の確率も数%でした。本装置では個体を見失うことなく、移動経路まで長期間に渡り追跡できます。

   コンセプトの効果(新産業創出の期待)

選択栽培漁業

   国内では毎年約シロザケ1,827百万尾、マダイ21百万尾、ヒラメ29百万尾(添付資料参照)の稚魚が放流されています。シロザケなどのサケ類は、放流過多で個体が小さくなり放流過剰になっています。また、せっかく放流した稚魚も、放流した地域に留まるのか死んだかも不明です。
   放流効果の悪い例としては、閉鎖水域(湖、河川)でのブラックバスがあります。ブラックバスは他の魚を食べすぎて、完全にその閉鎖水域の食物連鎖を破壊しています。海洋についてはデータが無いだけで、過剰放流は閉鎖水域と同様の結果を招いている可能性があります。
栽培漁業の有用魚としては、シマアジ、オニカサゴ、ハタ等が候補にあがります。この他にも、生息条件が殆ど解明されていない、金目鯛、太刀魚等の深海に生息しかつ夜行性魚もあります。
   海面養殖漁業で養殖されている魚はハマチが有名です。その餌は冷凍カタクチイワシが多く餌の体長は10cmぐらいです。この残り餌を養殖筏の近くに生息し、餌として捕食する魚が有用魚になります。また、海面養殖業による環境汚染も解決でき、選択栽培漁業はまさに一石二鳥の方式です。

地域の活性

   余り餌を捕食する時間帯は、魚種により24時間異なります。常時養殖筏の近くに生息する魚種、周辺を回遊し給餌時間にだけ戻る魚種、そして夜行性の魚種はいつ養殖筏付近に来るかデータは全くありませんでした。
   本装置を使用すれば、養殖筏付近にいつ対象魚種が来ているか24時間無人で観測できます。よって、その地域に適した有用魚を、短期間で見つけだす事が可能になります。
   選択栽培漁業の地域としては、全国の漁港約3,000港、そしてこの近辺で海面養殖業が営まれている地域がターゲットとなります。
全国的に漁業生産量は毎年減少していますが、放流結果の予測できる栽培漁業により、関サバの様なその地域のブランド魚種を生み出せば効果も倍増します。

その他の市場
ダイバー

   本装置は、水中で移動するものであれば対象が魚に限定されずに、潜水夫や中立ブイの追跡などにも適用できるものです。これは潜水士の安全装置としても期待できますし、毎年行方不明者の多数出るスキューバーダイバーの安全対策として考えても、大きな市場が期待できます。

ピンガー1ピンガー2

動作手順

● 呼び出しピンガは、無線基地局からの指示により、定期的に超音波パルスを発射します。

● 応答式ピンガは、呼び出しピンガからの超音波パルスを受信すると、一定時間遅れて超音波パルスを送り返します。

● 約100メートル間隔で設置される3台のソノブイが、呼び出しピンガの送信パルスと小型応答式ピンガの送信パルスの時間差を算出し、時間とともに記憶します。

● このデータは無線基地局からの呼び出しによって、無線基地局へ転送されます。

● 無線基地局で受信されたデータは、パソコンに取り込まれ個体別に三次元表示されます。

この作業は24時間自動実行され、有用稚魚の移動軌跡が得られます。

   以上の手順により、放流した稚魚の海中での三次元的位置を高精度で長期間自動追跡できます。
   その結果として、放流海域における稚魚の養殖筏との相関関係・同海域の地形との相関関係・海流や水温・塩分などの環境情報との相関関係が克明に測定できます。
   したがって、栽培漁業に適する魚種の選択と放流効果の実証を、実用レベルで判定できる材料を提供することができます。

モデル化の具体的な目標

   選択栽培漁業のタッゲット地域は全国約3000の漁港で、海面養殖業を営んでいる地域となります。
   本装置を導入することによって得られる、漁業生産金額は1地域で年間3億円から10億円が見込まれます。
   栽培漁業の魚種は大型高級魚であるシマアジ、ハタ等がターゲットとなり、取れた魚は天然魚ですから養殖魚と比較して数倍の価格となります。
   順調に本装置の設置が進み、100箇所ぐらいで本装置が稼動すれば数年で漁業生産金額500億円程度が期待できます。
   本装置の価格は300万円ぐらいを目標として、これを全国の海面養殖業地域に販売していきます。
   製品完成後初年度は、数箇所のモデル地域に導入し結果を出すことを先決とします。当初のモデル地域は実験実績がある地域から開始し、水産総合研究センターとの協調も取りながら設置数を増やして行きたいと考えています。
   国内の最終ターゲットとしては1,000箇所ぐらいと考えていますが、海外にも大きな市場が待ち受けています。 漁業生産額予測

コンセプトの周辺

   現在魚類の継続追跡は自発式ピンガを使用しての観測船による方法しかなく、本装置以外に長期間、高精度、自動に海中個体を追跡できる装置は見当たりません。よって、選択栽培漁業における競合は無いと考えています。
   また、海洋に最新エレクトロニクス機器を持ち込む事は、漁業生産を増加させる為にも、推進していかなければならないプロジェクトであると考えています。

実施の方法

   全体として、基本設計は既存の研究成果を流用し、試作はネットビジョンが担当します。ネットビジョンはASIC、カスタムIC、ネットワーク開発のノウハウを生かしながら外注先を取りまとめます。 実施方法は各装置試作と海洋実験に分かれます。

装置各部の試作

● 応答式ピンガの試作
既存の研究成果を基に、ネットビジョンにてカスタムICと応答式ピンガを試作します。

●  呼び出しピンガとソノブイ部の試作
既存の研究成果を基に、ネットビジョンにて試作します。各部はコンピュータ化されており、最新のCPUとOSに切替え再設計となります。

● 海上ワイヤレスネットワーク部の試作
ワイヤレスネットワーク(IEEE-802.11b)を使用し、無線基地局との通信を含めソフト、ハードを開発します。

● 海上無線基地局の試作
既存の研究成果を基に、ネットビジョンにて試作します。無線基地局のコンピュータ処理は全て再設計となります。また、デバッグは共同作業とします。

海洋実験

   海上基地局を30m間隔で設置し、応答式ピンガの位置を数日間三次元で自動追跡します。解析精度は10cm以下、範囲は海上基地局から50m、個体数としては3個体の追跡をする予定です。
   下図は、実際に海上に海上基地局を設置する場合の参考図です。
   基本の設置では、養殖筏付近をカバーできれば、何処の岩場とか海域に有用稚児が滞留するか、いつ有用稚魚が回遊してくるか等、十分に栽培魚の行動を分析できます。
   将来計画としては、沿岸に海上基地局を設置することも考慮に入れてあります。その場合は、計測精度はあまり必要ないので、周囲約2Kmの観測ができます。
   海上基地局の設置を全国に広げていけば、いくつかの地域を回遊する有用稚魚も栽培漁業のターゲットになり得ます。

無線基地局